古代中国には「下医は病気を治し中医は人を治し上医は国を治す」という言葉があります。それの20世紀版です。そもそも、師範学校ではなくて医学校を選択した台湾人には、「教師は権力(日本)の手先、医学だったらけっこう自由」という認識を持っていた人が多くいたようです。もともとリベラル傾向が強い人が集まっていたのかもしれません。
1937年日中戦争が起こり、日本は台湾の皇民化政策を推進します。その過程で医師の専門家集団は国家とのつながりを深めますが、それは「医師の脱民族」を意味していました。ただし「民族性」はそう簡単に消えるものではありません。この「ハイブリッド・コミュニティ」の特殊性を、著者はどうやって理論化したら良いのだろうか、と迷います。

日本医学界からは、台湾は「化外の地」から「熱帯医学」を研究するための「重要な場所」となりました。そして、戦争によって“ピラミッド”の頂点にいた日本人医師が徴用されたため、台湾人医師や医学生は一挙に“ピラミッドの頂点”に駆け上がっていきます(台湾人が正式に徴用されるのは1945年からです)。ただし彼らの自己意識は「日本人」ではありません。といって「台湾人」や「中国人」でもなくなっています。彼らのアイデンティティは「専門職のアイデンティティ」となっていたのです。(そもそも台湾は清から日本に割譲されたので、台湾人は自分たちの祖先は清朝の人間だとは思っても、中華民国人とは思っていません)

「帝国主義」というのは私には実感をもっての想像ができませんが、本書を読む限り、その中で生きることは、適応するにしても抵抗するにしても、大変だろうな、と思わされます。特に「アイデンティティ」が「ハイブリッド」だとますます大変でしょう。ところで「日本人は単一民族」って、誰が言ったんでしたっけ?